2020 年10 月号vol . 2

カントンの犬
フランスの生理学者のルネ・カントンが医学史に残る画期的な実験を 1897年に行った。その実験は、犬の血液を海水で薄めた代替血漿と入れ替えた。
「海水は血液の代用として機能する」それを証明するためにした。
「生体の体液と海水は同じ組成で同じ働きをする」自らの仮説を証明するため、犬を用い、実験は一般公衆の面前で行われた。
1.体重 5㎏の犬が用意された。犬の血を抜き取り、血液濃度と同じミネラレル濃度に薄めて調整した同量の海水を血管に注入した。実験は 90分かかった。
注入した海水は3.5.、犬は腹部がふくれ、ぐったりと横たわっている。体温は下がり腎臓の排泄機能も弱まった。
その後体温が上がり始め、生理作用は復活した。5日後にはすっかり回復し、元気に尻尾を振り始めた。「海水で内部環境が置き換えられても、生命活動を妨げない。それどころか、犬は実験前より生き生きとして活発になった」海水によって生命細胞は完全な状態で生きる。
2.体重 10㎏の犬が用意された。血液を瀉血法で抜き取った。「大腿静脈から犬の体重の 1/20に相当する 425gの瀉血を 4分間にわたって実施。犬は角膜反応が消滅。
もはや血を抜き取るのが不可能な状態となり、海水の注入を開始。11分間に海水532.を注入。角膜反応を確認」抜いた血液量を上回る海水を注入していく。注入後に犬を休ませた。
「呼吸は極めて短く、荒い。毛布の上で横たわっている」5日を過ぎるころから急速に回復していった。8日目「元気あふれる様子を見せる。
旺盛な活力は引き続き数日にわたり確認された」この実験で観察・証明されたこと急速な活力回復、赤血球の急速再生、白血球の増加、感染に対する抵抗、注目すべきは、注入された海水が赤血球や白血球など血球成分を急激に増加させていることだ。
白血球の 1種、顆粒球は 1時間に2~3倍の勢いで増えることが知られている。海水の注入は血球増殖を加速する。そして、白血球や赤血球、血小板などは他の血球に変化する。
大量出血しても、薄めた海水を注入すれば血球成分は増殖して正常な血液が生成されるのだ。
つまり海水は血液機能の再生をもたらす。白血球の再生は、感染に対する免疫機能を高め、赤血球の再生は酸素と栄養供給で活力を回復させる。
この犬は実験後 5年間も元気で生き続けた。その後バスにはねられて命を落とした。
3.多種類の動物を用いた実験をした。「白血球が海水中で生きる」ことを証明しようとした。哺乳類、両生類、は虫類、魚類、鳥類を使って実験をした。
血球の中でも白血球は極めて繊細な細胞だ。どのような人工溶液でも生きていけない。血液を各動物から採取し、それを海水で希釈して顕微鏡で観察した。白血球はまったく血中と同じように生きていた。
どの動物も、海水に浸された白血球は正常状態を保っていた。カントンは著作『有機体の環境としての海水』は学術書であるが、大衆の間に大きな反響を起こした。時の学者たちはカントン理論に反発と敵意をむき出しにした。当時の潮流であったダーウィニズムと真っ向から対立する概念であったからだ。
出血時に輸血などする必要がないことは、血液型発見のはるか以前から大きな話題になって世の中には知られていた。もともと必要がないことをわかったうえで、あえて輸血が行われるようになった。多くの人命を救うため「海水療法」の海洋診療所をパリに開設した。医学会は反発したが、その反面、多くの医師たちがその理論に共鳴し、協力にかけつけた。19世紀末から、多くの医師たちが独自に「海水療法」を患者に施すようになっていた。
1956年には、パリ国際会議で「血漿より海水の方が、明らかに優れる」と発表された。海水から開発した「カントン血漿」の医学的優位性が立証された。1982年以前は「海水療法」のカントン・アイソトニックは医薬品として認可されていた。カントン・アイソトニックの特徴は「白血球が生き続けられる」こと。元素比が体内環境と同一だからである。
武田克之(徳島大学名誉教授)はカントンの偉大な業績をこう称えている。
「理論をもって現実に向い、現実の中に理念を問う知性のあり方 理想主義的、現実主義がルネ・カントンの海洋理論における科学的思考の発展過程に脈々と生きていることを知り、感動した」海水を薄めたものと、羊水とは、浸透圧や成分が同じである。
生理食塩水 1870年代に「輸血を受けた患者の半数以上が死んでいる」という報告があった。
1878年、フランスの医師ジョルジュ・エイアムは生理食塩水を発明した。「血液の代用として、輸血で使用できる」「血液と異なり、凝固せず、副作用もない」「簡単に運搬もできる」エイアムは「水」と「塩分」で、大量出血の患者も救えることを発見した。医学界の大反響を起こした。医学界は再び血液を支持するようになった。
1900年、オーストリアの病理学者K・ラントシュタイナーが「血液型A・B・O型を発見した」、1902年、血液学者デ・カストロが AB型を発見した。「血液型が合えば、輸血は有効だ」という考えに押されて、「生理食塩水補給法」は忘れ去られてしまった。輸血の代用として水分と電解質 (ミネラル )を補給すれば済み、医療現場の「リンゲル液」が副作用がなく良いとのこと。
「輸血をしなければならないと医師に言われたら」それに対して「電解質液を点滴してください」と答える。(エホバの証人ではないが)
輸血
私はエホバの証人とは全く関係がありません。「輸血は血液型が合えばできる」と思っていました。しかし、輸血の怖さを知りました。
「輸血は一種の臓器移植である」.患者の体内に他者の臓器を移植するのと同じ。なぜ、輸血するのか。それは出血したからだ。なぜ、出血するのか。それは輸血したからだ。輸血して出血させる原因は 3つある。①GVHD:輸血血液中のリンパ球が生き残り、赤血球、リンパ球、血小板など血球細胞胞が失われて 100%死亡する。
②放射線照射:GVHDを防ぐための放射線照射が血小板を破壊する。血小板が死滅した血液は凝固せず、あらゆる臓器や組織から出血する。③抗凝固剤:輸血するには、血液を注射針に通さなければならない。献血者の新鮮血は体外に出ると、すぐに凝固する。すると、注射針がつまり輸血不能となる。血液がスムーズに注射針を通るように、輸血液には「抗凝固剤」入りの固まりにくい血液を注入される。
輸血の副作用
①輸血関連急性肺障害(TRALI):死亡率は 10数%。多くは輸血1~2時間後に発症。肺水腫をともない呼吸困難となり、急死する場合が多い。原因として放射線照射した輸血液の血球死骸が考えられる。その死骸が肺胞の抹消血管につまり、急性肺障害を起こし呼吸困難となる。
②心不全:輸血関連循環過負荷(TACO)。輸血後、6時間以内の発症が多い。過量輸血で心不全を起こす。呼吸困難、頻脈、血圧上昇
③輸血性急性腎障害:輸血した血液中に混入している血球の死骸が腎臓の抹消血管を塞いで急性腎障害となる。死亡することもある。
④肺水腫:輸血して肺に水がたまる。
⑤敗血症:血液中にエルシニア菌などが繁殖し、血液が腐敗する。発症すると 1週間ほどで死亡する。GVHDも末期に敗血症症状を起こし死亡する。
⑥プリオン:病原体タンパク質。狂牛病の感染源。脳がスポンジ状態になって死亡する。ヤコブ病も同じ疾患。
⑦エイズ (HIV):米軍の生物兵器として開発された人工ウイルス。性行為以外でも輸血と血液製剤で大々的に感染が拡大した。
⑧溶血反応:不適合の血液型を輸血すると発症。血球が溶ける致死的反応が起きる。
⑨血管内凝固:播種性血管内凝固(DIC)。血小板数の急激な低下によって起こる。
⑩アナフィラキシー:輸血された血液に強いアレルギーショックを起こす。
⑪細菌感染症:細菌に汚染された血液を輸血した場合に発症する。肺血症をおこすこともある。
⑫ウイルス感染症:各種ウイルスに感染する。肝炎、エイズなど
⑬肝炎:輸血性肝炎で多いのが C型肝炎。た血液は凝固せず、あらゆる臓器や組織から出血する。
坂口力(公明党)元三重県赤十字血液センター所長、医学博士、元厚生大臣「私が関わっていた厚生省は輸血した人の 50%が輸血後、肝炎にかかっていました。
それを献血に切り替えても、なかなか 30%以下にはならなかった」
赤血球製剤使用状況調査報告書輸血は出血や貧血患者に対して、ヘモグロビン酸素運搬の役割を果たすという。しかしこれらの目的を達成するための輸血にふみきるヘモグロビン Hb値や維持すべき Hb値は、必ずしも定まっていないのが現状である。
輸血の基準が示されていない添付文書輸血するもしないも、どれだけ輸血するか、どこで止めるかも、現場の医師の判断に委ねられている。
無血手術法 廣瀬 輝夫 元ニューヨーク医科大学教授
無血手術、臨床例 18,000例を個人で施行したので、その経験について述べたい。
輸血の副作用の恐ろしさを知ったのは、1948年千葉大中山外科で、副作用について日本医事新報に報告し、また 1949年河合外科の堀江昌平氏が緑膿菌の感染していた保存血を自分に輸血して危うく生命を失うところであった。
1953年に渡米して、恩師 Chares Bailey教授が無輸血で肺切除を施行されたのを見て、初めて、“エホバの証人”の存在を知った。それで、“不必要輸血”除外に対する工夫を始めた。現在実施されている“輸血副作用防止法”については“ばんよう”1月号に詳述する。私は勿論“エホバ教徒”ではないが、アメリカ紳士録にモットーとして載せたように“宗教や信念は人それぞれ違っているもので、相手が間違っていると思っても、その人が他人に害を加えない限り、その信条を尊重し、できるだけ救けるべきであるという観点から約 7,000人の“エホバ証人”の手術を施行した。
輸血を避けてしないのと輸血がいかなる場合でもできないのとは、外科医の心構えおよび術式は異なるし、殊に失血のため貧血を既に起こしている教徒に対する救急手術は綿密な計画の下に厳密な止血とさらに医師の患者教徒に対する同情と勇気が要求される。教徒に対していわゆる“代用血液としての輸液の許される種類であるが血液およびその製剤以外は広汎に使用が可能であるが、コロイド溶液としては、1970年に私どものその使用を推奨している澱粉溶液、ヘスパンはデキストランと比較して出血傾向を助長しないのでエホバ教徒に使用できる。
無血手術で一番肝心の止血法についての詳細は金原出版からの“無血手術法”を参考にしていただきたい。1965年から 1985年まで 20年間に、通常輸血は不必要とされている大手術および小手術を除いて、6,500例の無血手術の死亡率は 1.4%と一般患者と同様であり、心臓手術例を除外した 6,000例では 0.8%である。
手術症例は一般手術、殊に出血症例に対して危惧の強い婦人科症例の多くが、各病院から転送されてきたので多数であるが、今回は私の専門である胸部外科の中でもエホバ教徒について述べる。先天性疾患の閉鎖式手術および開心術は死亡率が極めて低率である。また幼児症例は止血を完全に施して、閉鎖手術例は胸腔ドレーンの挿入をしないで、術後の治療を容易にする。現在でも心房中隔欠損症で術前に貧血があるものは開心手術を避けて1954年に私の考案した心房中隔固定術を使用している。肺静脈異常還流の患者もこの方法で手術が可能である。エホバ教徒に対しては、“患者の疾病に治療が可能であるが、輸血を拒否するので手術にできないため見放す、または治療を拒否する”との態度でなく“輸血のできない可愛想な人間が疾病に罹ったのであるから、医師はその制限に対する条件を尊重して、自己の技術に工夫を加え、最善を尽くして治療に当たる”という情熱を持つべきで、そのため同僚からの制裁を受けることを甘んじて治療に当たるべきである。
無輸血手術が世界的流れ
アメリカ病院協会が出版する「AHAニュース」は無輸血手術が評価されるようになった理由を説明している。「宗教的信条として始まったものが、現在では、医療上の好ましい選択、または先端的技術へと進展している。タイム誌の 1997年秋特別号には、なぜ多くの医師が無輸血手術を奨励しているかが掲載されました。イングルウッド病院無輸血医療外科推進研究所を取り上げて、この研究所は現在、無輸血手術を手掛けている全米の 50余りの施設のなかでも指導的な立場にある。同研究所は、供血血液を全く使用せずに、普通なら輸血が行われるような外科手術を行っている。さらに、失血を劇的に抑える、もしくはほとんどなくす技術も差しのべている。