2022 年2 月号vol .18

権力者の横暴を防ぐ憲法が危ない
『自民党が壊憲して創設しようとする緊急事態条項』
憲法を理解していない自民党の言いがかり
非常事態の想定が現行憲法にないのは問題だ。だから国家緊急権を作れ。
大災害が国政選挙の公示日直前に発生した場合、衆議院の解散後に総選挙をすることになりますが、衆議院の総選挙で衆議院議員を欠いたとしても、内閣は参議院の緊急集会を求めることができるのです。そのために緊急集会の制度が作られています。
憲法 54 条 1 項では衆議院の解散の日から 40 日以内に総選挙を行わなければならないと定められていますが、総選挙直前の地震の場合は 40 日以内に総選挙ができなくなる可能性があります。このことを問題にする議員もいますが、この規定は、内閣が衆議院を解散し ながらいつまでも選挙をしないことを防止して内閣の解散権の濫用を防ぐために設けられ たものであり、この趣旨に反しないのなら 40 日を超える選挙も可能です。また、最高裁判所の議員定数不均衡判決によると、選挙について違憲無効の判決が確定した場合、解散後 40 日経過後に選挙をやり直すことを前提としているものと考えられます。
参議院の通常選挙の場合に大地震が起きても、その時は、衆議院議員はいます。それから非改選の参議院議員がいます。非改選の参議院議員は半数、1/2 ですが、定足数は 1/3 で足りるのです。ですから、国会はきちんと機能します。そのために非改選の参議院議員がつくってあるのです。
衆議院と参議院のダブル選挙の直前に地震があったらどうか。ダブル選挙とは、衆議院を解散して参議院選挙の時に同時に衆議院の総選挙を行うことです。衆議院はなくなりますが、この場合でも、非改選の参議院議員が 1/2 います。これで定足数を満たしますから、参議院の緊急集会を請求できるのです
衆議院議員の任期満了による選挙直前に大地震が起きた場合はどうなるか。これは自民党 がよく取り上げています。しかし、日本国憲法制定後、75 年間で衆議院の任期満了による選挙は 1976 年 1 回そして 2021 年の任期満了越え選挙 1 回の合計 2 回しかありません。 極めてまれなケースです。この時に大災害が発生するとなると、さらにまれなケースです。1942 年の第二次世界大戦の真只中においても翼賛選挙が行われました。
憲法は最高法規なので、何らかのニーズがあった場合には、まず法律の運用か改正で対処 すべきであり、これができない場合は憲法の解釈で対処して、それでもできないという場合に初めて憲法改正を行うべきである。この場合、公職選挙法の改正で早めに選挙を実施するするようにすれば任期満了と新議員の就任を連続して行うことができます。また、憲法の 解釈によっても、この場合には内閣が参議院の緊急集会を求めることができます。 本来、参議院の緊急集会は、衆議院が解散された場合の規定であり、衆議院議員の任期満了の規定ではありませんが、衆議院が機能しない場合に参議院が国会に代わって活動するという緊急集会の趣旨からすれば、緊急集会を求めることは憲法に適合すると解釈できます。
想定外のことに対処するために制度を設けても、その先にさらに想定外のことを予想した対処が必要となります。日本国憲法は、このような場合は濫用の危険があるとしてあえて国家緊急権を設けなかったわけです。

災害対策の法制度
平常時から厳重な法律が整備されている。災害対策基本法等により、権力の集中と人権の制限について定められている。災害時の主な法律をあげれば、災害対策基本法、大規模 地震対策特別措置法、災害救助法、自衛隊法、警察法・警察官職務執行法、消防法・消防組織法、原子力災害対策特別措置法等の法律があります。
有事へ対応する主な法律は、武力攻撃事態対処法、国民保護法、海上輸送規制法、米軍 行動関連措置法、特定公共施設利用法、捕虜取扱い法・国際人道法違反処置法、自衛隊法、安全保障会議設置法、周辺事態安全確保法・船舶検査活動法等の法律があります。

権力の集中
災害が異常・激甚などの時は災害緊急事態の布告等を総理大臣が行います。内閣に立法権が認められます。内閣は国会閉会中、衆議院解散中、臨時会の召集とか参議院緊急集会の請求を求めるいとまがない場合、緊急政令を制定できます(災害対策基本法 109 条)。そして次の四つの事項に限って、政令を制定することができます。
生活必需品の配給、価格の統制、金銭債務の支払いの延期、外国からの救助の受け入れの四つです。この政令には罰則を付することができます。そして政令制定後、直ちに国会の臨時会を召集し、または、参議院の緊急集会を求めて、国会の承認がなければ政令は効力を失います。
東日本大震災の時に内閣がこの緊急政令を使わなかったと、状況等を分からずに批判したところがあります。しかし、東日本大震災の時は国会の会期中だったので緊急政令を発しなかったのは当然のことです。現実に国会で災害対策の法律を制定して対処したのです。

災害で国家緊急権は必要か
災害対策の専門家で一致した原則があります。災害対策は、災害対策基本法で三つに分類して整備されています。事前の予防対策、直後の応急対策、事後の復旧対策です。
国家緊急権が問題になるのは直後の応急対策です。
災害対策の原則は「準備していないことはできない」ということです。災害対策は過去の災害を検証して、これに基づいて将来の災害を予測し、その効果的な対策を準備することです。国家緊急権は非常事態が発生した後に、いわば泥縄式に強力な権力で対処する制度です。想定していない事態に対しては、いかなる強力な権力を持ってしても対処することはできません。

東日本大震災の時、福島第一原発から 4.5kmの距離にあった双葉病院とそこの介護老人保健施設に高齢者が 440 人の内、寝たきりの高齢者が 180 人いて、避難中に 50 人が亡くなりました。
なぜ、こういうことが起きたのか。法律上、国は防災基本計画を策定する義務があり、そして指定行政機関などは、これに従った防災業務計画を策定する義務があります。都道府県、市町村は地域防災計画を策定する義務があります。原子力事業者は原子力事業者防災業務計画を策定する義務があります。さらに指定行政機関、自治体の長は防災教育の実施に努め、防災訓練の実施義務があります。
双葉病院の件では、地震では原発事故は起きないことを前提にしていた。病院のマニュアルでは、地震が起きた時は屋外に出る計画しかありませんでした。そして、自治体や国、事業者は原発事故が発生した場合の避難ルート、県境を超えてどこへ行くのか。あるいは、交通量を考えてどうするのか、車両やドライバーをどうやって確保するのか。スクリーニング 会場はどこに設けるか、逃げた後の避難者たちの生活の場である避難所はどうするか、高齢者とか、障害者の避難の収容はどうするか、といった点について、何ら計画を策定していませんでした。
市町村や都道府県にまたがる連携、住民参加による防災計画の策定、そして避難訓練は 全くありません。つまり、法律や制度の適正な運用による事前の準備が全くされなかったことが原因です。災害が起こった後に、憲法を停止したところで対処することはできません。東日本大震災で適切な対処ができなかった理由は、法の適正な運用による事前の準備を怠ったことであり、準備していればかなりの部分が対処できたと思います。
「人権を守るため」国家緊急権をと言っていますが、全く逆です。国家緊急権は「人権を守るため」の制度ではなく、「国家を守るため」に人権を犠牲にする制度です。

国家緊急権は災害対策に障害となる
災害における被災者支援活動において、国と自治体の役割分担を考えると、被災者に一番近い市町村に主導的な権限を与えることが必要です。迅速に被災地の情報が入りやすく、個々の被災者に対して迅速・柔軟で最も効果的な支援活動を行うことができるからです。これに対して、国には情報が迅速に入らないだけでなく、画一性や公平性が要請され、 個々の被災者に対し迅速・柔軟で効果的な支援活動を行うことができない。
復興について、応急仮設住宅を町が実施する場合と環境省が実施する場合を比べると、 町が行う場合は町役場の職員と所有者と顔見知りのことが多いので、容易に用地が借りられ、地元業者に工事を発注するので仮設住宅をすぐに建設できました。
環境省では用地取得は業者に委託するので、見知らぬ業者に所有者は土地を貸さないし、建物はゼネコンに発注し、大量の仮設を建設しているので順番待ちとなり、建設工事が 長期間かかりました。
市町村が主導する方が国が行うより迅速で効果的な対応ができます。国は予算、人員、物資等で後方支援を行うべきです。被災三県の市町村長へのアンケートでも同じ結果となっています。
災害対策基本法も、市町村長が救助や応急措置に第一次的に責任を負い、その後方支援を都道府県知事が行い、都道府県の後方支援を国が行うものと位置付けられています。
東日本大震災から 10 年経過しているが、いまだに、複数の自治体が連携した住民の避難行動や、避難後の生活再建に関する地域防災計画は何ら策定されていないし、防災訓練も防災教育もされていません。

テロ
テロは必ず起こるものではありません。国家緊急権が発動される非常事態ではありません。テロは犯罪であり、「平常時の統治機構」は機能しています。警察が対処します。

自民党壊憲案の危険性
目的の不当性
不当な目的で使われる危険があります。緊急事態の宣言の要件は 98 条 1 項に「法律の定めルところにより」と書いてある通り、憲法に限定して列挙されるのではなく法律で定める ことができる。憲法では、外国の攻撃、内乱等の重大な自体が書かれていても、国会の 過半数の議決でいろいろなことを追加して適用範囲を容易に拡大できます。
例えば、テロ、ストライキ、デモなどを加えることができます。しかし、これらは平常時の統治機構が機能する場合であり、法律で十分対処できます。国家緊急権を適用する場面ではありません。憲法を停止できる事由を憲法改正の手続きを経ずに、国会の議決で拡大できるのです。国家緊急権の適用でない事態まで追加可能なのです。

緊急事態の宣言は 98 条 2 項で「事前又は事後に国会の承認を得なければならない」と しています。98 条 3 項で、国会で不承認の議決があったとき、または、国会が緊急事態の宣言を解除すべき旨を議決したときは、閣議にかけて宣言を速やかに解除しなければ ならない。しかし、事後の国会の承認を得ることについて期限が書いてありません。 2015 年、安倍政権は衆議院議員の 1/4 以上が、臨時会の召集を求めたところ、憲法 53 条に「いづれかの議院の総議員の 1/4 以上の要求があれば、内閣はその召集を決定しなければならない」とか書いてあるのに、期限は書いていないと言って臨時国会を召集しま せんでした。日本国憲法にきちんと書いてあることでさえ平気でウソをつく自民党に政権をまかすことはできません。

緊急事態の期間
国家緊急権は例外措置なのに、自民党案では期間の制限がない。100 日を基準に継続を予定している。

権力の集中と人権の制約
自民党案では、内閣は法律と同等の効力を有する政令を制定できます。国会開会中でも内閣は政令を制定できるのです。また、国会の承認が得られない場合に、効力を失うという規定がありません。国のお金をどう使おうと勝ってに使うことができます。
全ての人権を制限でき、また、全ての事項について政令で制定できます。
国家緊急権の中に全権委任条項が入っているので、日本が独裁国家になることは火を見るより明らかです。
人権と報道の自由と知る権利がなくなり、国民は情報が全く入ってこなくなるため、政府は好き放題のことができる。
第二次世界大戦で最初の奇襲攻撃後、負け戦さの連続なのに、政府発表は真逆のことを国民に伝えていたことを思い出していただければ理解できると思います。

戒厳令
災害時に戒厳令が発動された場合、自衛隊は被災者の救助ではなく、暴動の抑止等の治安活動をすることになる。また、報道の禁止等の措置がとられる。
これらの措置は被災地の情報が国民に知らされず、国民による支援がされなくなる。また、治安維持活動で人権侵害が発生する可能性が高まります。
国防審判所(軍法会議)が設置されるので、戒厳司令官は、行政・立法・司法を取得する。

近代的立憲主義で憲法とは「個人の権利・自由を確保するために国家権力を制限する」ものとなっている。
自民党案では憲法の縛る対象が、国家権力ではなく国民になっている。全くナンセンス。自民党が目指しているのは「国民の基本的人権を制限して、国民の自由を奪い、国家権力がやりたい放題できる、民主主義を捨てた全体主義の国」です。